451.童話

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人生.....誰しも誰かを待っています。

その人はきっと自分を導いて救ってくれるはずだと....。

 

私が子供の頃からおぼろげに記憶していた童話です。↓


太陽がかたむきはじめた、ある日の午後のこと。

お母さんと男の子が、大きな岩の顔のことを話していました。

少し目を上げると、遠くの山の崖(がけ)に、太陽の光に照らされて、人の顔のように見える岩がありました。何キロも離れているのに、はっきり見えるほど、それは大きかったのです。

その顔はやさしくて、おおらかで、愛情があふれだしているようでした。

「ねえ、お母さん、あの岩の顔がお話しできたらいいのに。きっと、すてきな声をしているよ。もし、ああいうお顔の人に会えたら、ぼく、その人を、とっても好きになると思うよ」
「そうね。実はね、あの岩の顔には言い伝えがあるの。いつかこの村から、あの岩とそっくりな顔の人物があらわれるというの」
「わあ、ほんとう!」

男の子は、手をたたいて喜びました。

「お母さん、ぼく、その人に会えると思う?」
「会えるかもしれないわね」

男の子はアーネストといいました。アーネストは、毎日、朝と夕方、あの大きな岩の顔を見つめました。そして、その人に会える日を待ち遠しく思うのでした。

アーネストは、家が貧しかったので、小さな手で一生懸命、お母さんのお手伝いをしました。いつもニコニコしていて、心のやさしい子に育ちました。お母さんは、そのやさしい心にどんなに力づけられたことでしょう。

アーネストに、先生はいませんでした。あの大きな岩の顔が何でも教えてくれました。1日の仕事が終わると、アーネストは岩の顔を見つめていました、時のたつのも忘れて……。

岩の顔も、アーネストにこたえて、ほほえみかけているようでした。

 

そんなある日のことです。

「大きな岩の顔と瓜二つの人が、大金持ちになって村に帰ってくる」という噂(うわさ)が立ちました。

待ちに待った人がやって来る。アーネストの胸は、うれしくてはちきれそうでした。

そして、ついにその日が来ました。4頭の馬に引かれた金ピカの馬車が、目の前を通ってゆきました。道ばたに、おばあさんと子供のこじきが座っていました。すると馬車が止まり、大金持ちが窓から手を出して、銅貨をいくつか、ばらまきました。人々は歓声を上げました。

アーネストは、その人の顔を見ました。それは、お金にしか興味のない、しわだらけで不機嫌なおじいさんの顔でした。

アーネストは目をそらしました。そして、大きな岩の顔を、じっと見つめるのでした。

 

年月がながれました。アーネストは青年になっていました。

村に、ある噂が立ちました。この村から出ていった兵士が大活躍して将軍になり、引退して村に帰ってくる、というのです。その年老いた将軍は岩の顔にそっくりだ、と。

アーネストは、畑仕事を休んで歓迎会に行きました。けれども、そこで見た将軍の顔は、けわしい目つき、そして戦いに疲れた顔でした。アーネストは一人、会場を出ました。

そして目を上げると、大きな岩の顔がやさしく、あたたかく見つめてくれているのでした。

 

さらに年月がながれました。アーネストは、壮年になっていました。村には、あの岩の顔にそっくりな、この村から出た政治家がやって来ると噂が立ちました。やがて大統領になる人物だ、と。けれども、その人もアーネストには、岩の顔に似ているようには見えませんでした。

政治家が通り過ぎた後、砂ぼこりがおさまると、遠くに大きな岩の顔が見えました。それは、
「心配するな、アーネスト。その人は必ず来る」と語りかけているようでした。

 

アーネストは、何かの勉強をしたわけではありません。けれども、岩の顔を見て、清らかな心で過ごしたアーネストの考え方は、ほかの人とまったくちがっていました。

しだいに人々は、アーネストにさまざまな相談をするようになっていました。アーネストと話をすると、心が晴れ、恨みや憎しみが、いつのまにか消えてゆくのでした。

いつしかアーネストの髪とひげは真っ白になり、おじいさんになっていました。

そのころアーネストは、1冊の詩集を熱心に読んでいました。その詩人はこの村の出でした。

気高く美しい詩を読んで、アーネストは思いました。この詩人は、あの大きな岩の顔と同じ心をもっている。この詩人が「その人」かもしれない、お会いしたい、と。

ある日、アーネストがベンチに座って詩集を読んでいると、旅人が声をかけてきました。

「何を読んでいるのですか」

アーネストは顔を上げました。

「はい、詩集です。この詩人はきっと、私が待ち望んでいた方にちがいありません」

旅人は、悲しそうな顔をしました。

じつは、この旅人こそ、その詩人だったのです。旅人は、自分がそんなすばらしい人間ではないと、だれよりもよく知っていました。そして、アーネストという老人が、長い長い間、あの大きな岩の顔とそっくりな人物を待っていることを知りました。

 

日がかたむいてきたころ、アーネストは広場へ向かいました。アーネストをしたう人々が、話を聴きに集まるようになっていたのです。

人々は、谷から吹いてくる風を受けながら、静かにアーネストの話に耳をかたむけます。

その言葉は力強く、人々の心にひびきました。口先の言葉ではなく、アーネストの生き方そのもの、知恵と愛にみちていました。

旅人も一緒に聴いていました。

なつかしい、この表情は何だろう。

このまなざしは……。心に問いかけながら、アーネストを見つめていました。

西から射し込む太陽の光に、アーネストの横顔が照らし出された、その瞬間です。

旅人は息をのみました。

そして、思わず叫びました。

「見よ! アーネストこそ、大きな岩の顔に、生き写しではないか!」

(おわり)

原作・ナサニエル ホーソーン
絵・おぐま ゆうだい
朗読・山口 仁奈子

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 出典 www.makuya.or.jp 

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